日本の自動車メーカーが自動運転車を使ったモビリティサービスの開発を進めている。2026年のサービス開始を予定するホンダに続き、日産自動車も事業化ロードマップ(行程表)を公表した。トヨタ自動車も今年7月、お台場で自動運転技術を使った実証を始める。自動運転サービスは海外のIT系が先行するが安全性や社会的受容性の面でなお課題を残す。日産自動車の土井三浩常務執行役員は「『ウサギとカメ』のカメの戦い方で最後に勝つ」と話し、社会に受け入れられる自動運転技術の開発を進める。
日産が28日に公表したロードマップでは、29~30年度に自動運転モビリティサービスの本格的な実用化を目指す。24~26年度にまずは横浜市で自動運転システムを搭載した「セレナ」を最大20台運用し、オンデマンド型のモビリティサービスを無償で提供する。27~28年度をめどに有償化し、横浜市を含む複数の市町村でサービスを提供する。
いきなり無人化するのではなく、当面は運転席に「セーフティドライバー」が乗車する。予想しない事態に対処することで社会受容性を段階的に形成していくのが狙いだ。時期こそ明言していないが、最終的にセーフティドライバーを降ろし、遠隔監視と運行管理システムだけでサービスを提供する。
自動運転車を使ったドライバーレスのモビリティサービスは米国や中国ですでに事業化されている。日本でも23年4月の法改正で「レベル4」(特定条件下における完全自動運転)の公道走行が解禁され、一部でサービスの提供が始まった。こうした動きに対し、現時点で無人サービスの提供時期を明言していない日産だが、土井常務は「他社より遅れているとは思っていない」と強調する。
日産が自社の強みとするのが、自動運転システムが「ホワイトボックス」であることだ。自動運転では周辺車両や歩行者の数、天候、路面状況などの複雑な組み合わせを想定したシステムの設計が求められる。無限ともいえる膨大な組み合わせ数があるため、「AIで解き切るアプローチが一般的だ」(土井常務)。
ただ、実際の交通環境では、接触事故に遭った歩行者と接触したGMクルーズのような回避することが難しい事故もある。こうした場合、ブラックボックスと化したAIの判断に全てを委ねていると製造者側は事故や故障の原因を説明できず、対策も取れなくなる。
このため日産は、車両を実際に動かすロジックの部分にAIは使わず、ルールベースの設計手法を採用している。AIをフル活用するよりも時間はかかるが、仮に事故が起きてもエンジニアが原因を把握できる。膨大なユースケースへの対応について、土井常務は「よく『無限』といわれるが、きちんと考えれば実は有限だ」という。横浜市の場合は、「2千のユースケースを想定していればおそらく十分だ」(同)という。この検証をこれから始める有人サービスの中で行う。土井常務は「2千という数字を出せることが日産の最大の強みだ」とも語る。
AIへの依存問題については、ホンダの研究所でAIの先行開発を指揮する安井裕司エグゼクティブチーフエンジニアも「相次ぐ事故の背景にはAIに任せすぎていることがある」と指摘する。
日産によると、22年1月~23年8月に8667㌔㍍分のバス路線が廃線となり、19年と比べてタクシーの運転手は2割減った。特に地方ではクルマを使った無人モビリティサービスの早期実用化が期待されている。
ただ日本の場合、一度でも事故を起こすとメディアに大きく報じられ、せっかくの普及気運が後退してしまう。米国では、民衆が自動運転車に火をつける事件も2月に起きた。社会的受容性を育みながら自動運転を根づかせるためにはどういうアプローチが必要か。日本の自動車メーカー各社は、こうした命題を念頭に置きながら自動運転技術のの実用化を目指している。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)3月2日号より