日本自動車工業会の豊田章男会長は11日、オンラインで記者会見を開き、政府が掲げる2050年までのカーボンニュートラル実現にはエネルギー政策の見直しが不可欠との認識を改めて示した。国内における火力発電への偏重が是正されない最悪の場合、輸出する部品や完成車の競争力が落ち、15兆円の外貨獲得や最大100万人規模の国内雇用に影響するとの試算も示し、政府が掲げる「グリーン成長戦略」については、日本の基幹産業でもある「自動車産業を中心に置いてほしい」と語った。
自動車のカーボンニュートラル実現を巡っては、走行中だけでなく車両製造時の二酸化炭素(CO2)排出量などLCA(ライフサイクルアセスメント)での視点が重要となる。豊田会長は国内の火力発電の比率が75%と高く、再生可能エネルギーのコストが火力発電より高コストである点を指摘し、「仮にLCAで見ると、輸出分の生産が再エネ導入が進む地域へシフトする可能性がある」と述べた。国内生産1千万台の約半数を占める輸出向けが失われることで雇用にも影響が及ぶ可能性を示した。
カーボンニュートラル実現目標の50年に対し、豊田会長は「30年前にはまだハイブリッド車はなかった。まだ30年ある、と考える」と述べ、35%という日本の電動車比率の高さや20年前と比べた自動車のCO2削減量が他国と比べて大きい点を示し、国内メーカーの電動化技術に自信を見せた。
11日、東日本大震災発生から10年の節目を迎えるに当って、豊田会長は「自動車産業が復興の原動力になろう、となったのが10年前」と振り返り、東北地域において自動車による産業復興と雇用創出をこれまで続けてきた点を強調した。一方、カーボンニュートラルを巡っては「10年前とは違った形で大きなマグニチュードになって日本の自動車産業に押し寄せている」と述べた。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)3月12日号より