ロシアのウクライナ侵攻を受け、両国向けの補修部品の輸出に影響が出始めた。日本の中古車が多く走るロシアでは日本製の補修部品の需要が高いものの、人道的観点から現地向けの出荷を見合わせる部品メーカーが出てきた。さらに、足元の経済制裁による物流の混乱も重なる。補修部品で市場拡大が進んでいたウクライナも戦禍の中で、交易の正常化の道筋は見えない。両国とも中長期的なビジネスへの影響に懸念が生じているのが実情だ。部品商社や業界団体は情報収集に取り組む一方で、事態打開に向けた対応を関係省庁などに働きかける検討を始めている。
道路環境や気候が厳しいロシアでは、耐久性のある日本車の人気が高い。日本車の普及に伴って、メンテナンスに必要な日本製の補修部品の需要も拡大していた。日本の部品商社や補修部品メーカーの中には、海外事業のうちロシアが主要取引先国となっているところも目立っていた。しかし、日本や欧米をはじめとする世界各国でロシアに経済制裁を科す中、日本や欧州系の船舶会社が現地への寄港取りやめる動きが相次いでいる。満足に荷物を送れない状況がいつ解消するかは分からず、日本の補修部品各社の業績にも響くのは間違いなさそうだ。
日本政府は600万円超の乗用車を輸出禁止するなど、追加の経済制裁を打ち出している。現段階では補修部品に関しての輸出規制は発令されていない。しかし、事実上補修部品の輸出が困難になっているのは事実で、こうした事態が長引けば大きなマーケットを失いかねないとの危機感が補修部品業界に出ている。
これを受け、日本自動車部品協会(JAPA、青木乙彦理事長)は業界団体を代表し、経済産業省などに実態を報告するとともに、定期的に意見交換する場を設けていく方針を固めた。青木理事長は「ロシア向けの取引を強めている企業も多くある。この収益を他で補填することは難しい」とした上で、「供給不足により、海外製の部品にマーケットが置き換えられてしまうことも懸念している」と語気を強める。
ロシアに進出している日本企業も警戒感を強めている。辰巳屋興業(櫨巳芳社長、名古屋市昭和区)はウラジオストクに営業拠点を設けているが、4日時点で通常通り営業を続けているという。しかし、同社の海外売上高のうち、ロシアは約4割を占める一大仕向地。荷が滞った状態が続けば、ダメージが広がる可能性がある。事実、現地の補修部品の在庫は枯渇している状況だ。今後、輸送ルートを鉄道に切り替えるなどして需要に応える動きも検討しているという。
さらに、岸本康常務取締役は「ウクライナ向けの需要も高まっている最中だった」と明かす。ロシアを軸に広がりつつあった周辺国に対するビジネスにも波及していくのは時間の問題とみられる。
こうした状況の中でもロシアの街中では、今も通常通り日本車が使用されている。今後も一定の需要を確保できると見込まれる。ある事業者では「今後、日本製の優良部品が手に入らなくなることを懸念して、買い溜めに着手するところも増えてきた」と、駆け込み需要の動きも指摘する。こうした事態を打開するため、いずれは需要に応じた補修部品の輸出に着手したい思いも強める事業者も少なくない。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領の日本向け演説を受け、ロシアへの輸出に規制をかける補修部品メーカーも現れ始めている。業界内でもさまざまな思惑が交錯しているのが実情で、解決までには時間がかかるのは間違いなさそうだ。
(前野 翔太)
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)4月7日号より