車内に置き去りにされた子どもが犠牲となる事故の防止に、社会的な関心が高まっている。昨年の福岡県での事故に次ぎ、今年9月には静岡県牧之原市の認定こども園で、園児の死亡事故が再び発生した。政府も安全装置の義務化に動き出すなど、対策に本腰を入れ始めた。こうした中、自動車業界でもカー用品や自動車整備の事業者で、事故の抑制につながる製品やシステムの提供を急ぐ動きが目立っている。喫緊の対策を迫られている幼稚園などから、好意的に受け止められており、今後、さらなる製品やサービスの投入に期待が集まっている。
盗難防止システムを手掛ける加藤電機(加藤学社長、愛知県半田市)は、9月の事故の一報から約1週間で車内置き去りを防ぐシステムを開発した。エンジンを停止するとブザーが鳴り、後方のスイッチを操作しないと解除できない仕組みで、ドライバーの後席確認を促す。車内に置くこうした電子機器の商品化では、ブザーやアラームの音圧のほか、夏場に車内温度が上昇した場合への適応など、保安基準や運用面での課題をクリアしていく必要がある。同社では高度な制御が求められる盗難防止機器で培ったノウハウを活用することで、早期の実用化につなげた。新製品はすでに市場投入している。
自動車電装品を手掛けるTCI(尾崎俊行代表取締役、大阪市淀川区)も、今月に入って「車内確認用後方ブザー」を発売している。今後も用品や部品関連の各社の知見を生かした新製品の発売が相次げば、幼稚園などでそれぞれの使用環境に最適な製品を選べるようになる可能性がある。
また、自動車整備の分野からも対策に取り組む企業が現れている。出張整備などを手掛けるセイビー(佐川悠代表取締役CEO、東京都港区)は、幼稚園で新システムの実証実験に乗り出している。社内に設置したカメラが人工知能(AI)により、置き去りにされた園児を検知。電子メールで管理者に知らせるものだ。
システムはインテリジェンスデザイン(中澤拓二代表取締役、東京都渋谷区)と共同開発している。実用化後はセイビーが出張でシステム取り付けを担う計画。通園バスは日々、朝晩稼働しており、整備工場に入庫する時間を確保しづらいケースもある。このため、システムのメンテナンスにおいても同社の本来のサービスである出張整備が生かされると見込んでいる。実用化は来年3月頃を予定しており、これに向けて出張整備士の増員を図るほか、オンライン学習システムなどを通じて対応できるスタッフを増やしていく計画だ。
置き去り事故をめぐっては7月、兵庫県高砂市でデイサービスを利用した90歳代の女性が送迎車両に一晩取り残された事故も発生している。置き去り防止対策は今後、介護業界でも需要が高まることが考えられる。より幅広い事業者が導入できるよう、用品や部品の各社には機能向上だけでなく、コスト低減への取り組みが求められそうだ。
(後藤 弘毅)
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)10月18日号より