自動車の電動シフトが見込まれる中、車載用電池メーカーが国内でも生産能力を増強している。エンビジョンAESCジャパン(松本昌一社長、神奈川県座間市)は4日、国内最大級となるリチウムイオン電池工場を茨城中央工業団地(茨城県茨城町)に設立すると発表した。主要納入先である日産自動車をはじめ、日本の自動車メーカーによる電気自動車(EV)の国内生産の増強が見込まれることから、バッテリーの国内需要の増大に対応する。パナソニックもトヨタ自動車との電池合弁会社で、車載用電池の生産能力を増強する。欧州や中国、北米市場で車載用電池の生産能力増強が加速しているが、今後、日本でも電池を生産する動きが本格化する見通しだ。
エンビジョンAESCにとって国内2カ所目の電池生産拠点となる茨城県の新工場は2024年に操業する予定。生産能力は年間6㌐㍗時でスタートする。将来的には18㌐㍗時に増強する計画で、現在あるリチウムイオン電池の国内生産拠点としては最大級となる。当初の投資額は500億円で、国や茨城県から支援を受ける。操業時、400人を新規雇用する計画だ。
新工場ではエネルギー密度の高い第5世代と呼ぶ新しいリチウムイオン電池のセルとモジュールを生産する。将来的には電極も工場内で内製する予定。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)を駆使したスマートファクトリーとして、高品質なバッテリーを生産する。原材料はなるべく国内で調達して「国際的に競争力を持つ国産電池を作っていく」(エンビジョンAESC・松本社長)方針。
エンビジョンAESCは、フランスでルノー向け、英国で日産の英国工場向け電池生産工場の新設を決めたばかりで、新たに国内でも生産能力を増強する。日系自動車メーカーがEVの国内生産を本格化することが見込まれているためだ。「大事な顧客」(松本社長)である日産の栃木工場にアクセスのよい場所に進出するが「関東圏の顧客の確保が見込める」と、日産以外の需要開拓も視野に入れる。
エンビジョンAESCの工場新設発表会見に出席した日産のアシュワニ・グプタCOO(最高執行責任者)は「EVと、コアであるバッテリーの開発は一体でないといけない。互いに近くで開発することでコストを下げたい」と述べ、エンビジョンAESCが国内に新工場を立ち上げ、次世代電池を製造することに期待を示した。
パナソニックとトヨタとの合弁会社で、車載用角形リチウムイオン電池を手掛けるプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(好田博昭社長、東京都中央区、PPES)も姫路拠点(兵庫県姫路市)に生産ラインを増設して、EV用電池を年間約8万台分の生産能力を増強する計画。
リチウムイオン電池はに欧米や中国で生産能力を増強する動きが相次ぐ中、日本は出遅れていた感があった。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、日系自動車各社もEVの開発を本格化、国内でEVの生産台数の増加が見込まれることから、今後、国内でもバッテリーの生産能力を増強する動きが拡がりそうだ。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)8月5日号より