上場自動車メーカーの2024年3月期決算は9社中、7社が過去最高の営業利益を記録した。記録的な円安や生産制約の解消による増収分、さらに値上げ効果が収益を押し上げた。売上高は日野を除く8社が過去最高だ。一方、25年3月期は4社が営業減益を見込む。北米を中心に販売増を見込むメーカーが多いが、労務費や研究投資、減価償却の各費用が利益を圧迫する。それでも各社は稼いだ利益を電動化やソフト開発などに投じ、競争激化に備える。
24年3月期の9社合計の営業利益は前期を7割近く上回る約9兆円だった。半導体不足で滞っていた車両生産が正常化し、販売(出荷ベース)は乗用車全7社が前年比プラスになった。インフレに伴う値上げの浸透も増益要因だ。
円安の恩恵も受けた。日本から米国への輸出が多いスバルは、対ドルで円が1円安くなると営業利益が110億円(前期は105億円)も増える。23年3月期に対して9円の円安となった24年3月期は、約2千億円の営業増益のうち、1265億円分が円安起因だ。
市場別では、激しい値引き競争が続く中国市場への深入りを避け、多くのメーカーが需要が堅調な北米市場に傾斜した。特に燃料高を背景としたハイブリッド車(HV)人気の高まりが追い風だ。電気自動車(EV)販売が一服する中、今回の決算でもHV戦略に言及するメーカー首脳が多かった。
米中の2大市場以外では、インド市場の需要が中間所得層の増加で拡大し、スズキの業績をけん引した。一方、東南アジア市場は、国にもよるが「金利高」「中国勢の攻勢」という〝二重苦〟に直面。この地域を主力とする三菱自動車の業績は、競合他社と比べて伸び悩んだ。
25年3月期は、慎重な見通しを示すメーカーが目立った。純利益ベースでは7社が減益を見込む。想定レートを1㌦=140~145円と実勢より円高・ドル安の水準に設定したためだ。
中長期的にはEVの需要も確実に伸びるとみて、研究開発費や設備投資も積み増す。トヨタは前期に日本企業で初となる5兆円の営業利益を稼いだが、グループで認証不正が相次いだことも踏まえ、佐藤恒治社長は「足場を固めるために時間とお金を使う」とも語った。
北米市場は各社が今期も高水準の販売を見込むが、市場全体の在庫水準はコロナ禍前と同等に戻り、インセンティブ(販売奨励金)が増え始めた。北米や日本を中心とした労務費の上昇も利益を圧迫する。自社だけではなく、同じようなコスト高に苦しむ仕入先への利益還元も今や必須のコストになった。
円安などによる業績の回復で前期中は株価も大きく上昇したが、3月末時点で自動車メーカー5社のPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る状況で、株主還元の強化も欠かせない。ホンダの三部敏宏社長は「非常に大きな課題だ」とし、社長就任後、初めて決算会見に臨んだ。
成長領域への投資とステークホルダーへの還元を両立させた上で、収益をいかに維持していくか。利幅が大きいHVの拡販はもちろん、生産台数の回復に合わせた原価低減活動の強化や値上げの継続、固定費の削減といった収益強化の必要性は前期以上に増す。「経営をとりまく環境はますます不透明で不確実性が増している。経営効率の観点ではまたまだやるべきことが多い」(マツダの毛籠勝弘社長)。決算資料に並ぶ好調な数字とは裏腹に、各社首脳の表情には緊張感もにじんだ。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)5月15日号より