職種別採用では「人材配置の融通がききにくくなる」(テイ・エス テック)といった懸念もあるため、導入に慎重な姿勢を貫く企業が一定数ある。
総合職で採用する企業は、選考段階から希望職種の聞き取りや、研修後に本人の希望と適正を考慮して配属先を決めるケースが多い。ただ、全員が希望の職種に配置されるわけではなく「(希望職種に配置されなかった社員が)『やりたいことと違った』と3年以内にやめてしまう」(タイヤメーカーの採用担当者)ケースもあるなど新卒採用した社員が短期で離職する大きな要因にもなっている。
若者の自動車離れもあって部品メーカーへの就職を希望する学生が減る中、各社は新卒の確保と離職防止に必死だ。特に、サプライヤーは自動車の電動化やソフトウエアファースト化に対応するため、新しい分野の人材確保が企業としての生き残りも左右する。
そうした課題解決手段の一つとして採用段階から配属先、仕事の内容を確定する職種別採用を導入する動きが広がっている。入社してからの「こんなはずじゃなかった」をなくし、人材の流出を防ぐ。 住友ゴム工業は21年4月入社、アイシンとブリヂストンは22年4月入社を対象とした採用活動でそれぞれ職種別採用を導入した。10年以上前から導入しているマブチモーターは「入社前、入社後の業務イメージのギャップを減らせる」としている。住友ゴムも「(選考段階から職種が決まっているので)配属先の調整が減り、人事部門の業務効率化にもつながっている」との効果もある。
特に理系の新卒は「特定のスキルを磨きたいと考える学生が多い」(今仙電機製作所)ため、職種別採用の導入で、就職希望者を増やすのに役立つとの期待もある。企業側も「専門性の高い人材を確保でき、さらにスキルを高める育成ができる」(NTN)といった観点から、職種別採用の本格導入を前向きに検討している企業は増えている。
豊田自動織機は24年4月入社の採用活動から職種別採用を導入する。生産技術系の職種を希望する学生が少ないことを課題としている日本精工は生産技術職限定で、試験的に導入する予定。NOKも「優秀な学生が採用できる」といった期待から来年以降の導入を検討しており、丸順も「受け入れ体制が整い次第、導入時期を検討」するとしている。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)5月2日号より