自動車部品・素材メーカーがデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを本格化している。製造現場ではこれまで、効率化や品質向上を図るため、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)の活用が進んでいた。デジタル技術の活用によって新たな事業やサービス創出に取り組むサプライヤーが相次いでいる。DX関連投資に重点を置く企業も増えており、デジタル化に遅れていたとされるものづくり企業がDXにじわりと目を向け始めた。
JFEホールディングスは2021年度からスタートした中期経営計画で、DX関連に4年間で1200億円を投じる計画を策定した。このうち、鉄鋼事業を手がけるJFEスチールが1150億円と大半を占める。同社は昨年7月、DX推進拠点「JFEデジタルトランスフォーメーションセンター」を立ち上げ、センサーデータなど基にサイバー空間でコンピューター解析するサイバーフィジカルシステム(CPS)の導入を進めている。21年度からは、すべての製造プロセスをCPS化し、24年度にはDX活用などによって労働生産性20%向上を目指す。
また、グループのJFEエンジニアリングは、エンジニアリング業務全体のデジタル化で設計効率を20%高めるとともに、新たなデジタルサービス創出も検討している。
日本ペイントホールディングスは21年から23年までの3年間、DX関連に100億円を投じる。顧客の発注データと工程計画、在庫管理、サプライチェーンマネジメントなどでDXを推進する方針。自社と取引先がともにメリットを得られるシステムの構築を目指すとしている。
アイシンは30年までの長期ビジョンで、ビッグデータを用いた業務効率化を図る方針。25年をめどに製品開発期間を30%削減するほか、デジタル技術を活用して業務の標準化や効率化も進める。生産コストについてもIoTの活用などで30年をめどに3割低減する目標を掲げる。また、物流ソリューションやライドシェアなどの取り組みで収集したデータを、新規事業展開に生かす。デジタル技術を、新たなソリューション提供と経営効率化に生かす。
愛知製鋼は社長直轄でDXを主導する。スマートファクトリー、デジタルソリューション、モノづくり改革、グループITガバナンス、働き方改革の5分野で、DXを推進する。モデルベース開発(MBD)の活用や、生産工程を一気通貫で管理できる新システムを構築するほか、熟練技術者の知見をデータ化するなど、デジタル技術を使って合理化と技術力向上を図る方針だ。
自動運転や電動化などによって自動車業界が大きく変化する中、サプライヤー各社も新技術への対応や、これらに向けた投資を確保するための経営効率化が求められている。DX化が遅れているとされてきた製造業だが、DXを積極的に推進している企業とそうでない企業とでは、足元の業績や将来に向けた成長性で差が生じる可能性もある。蓄積したデータや新たなデジタル技術を事業変革に生かすことが、生き残りのカギになるとの認識が静かに拡がってきた。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)7月2日号より