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自動車業界トピックス

電子車検証、開始から1カ月 手続き不慣れで混乱も

管理体制やアプリにも改善の余地あり

電子車検証

自動車検査証の電子化(電子車検証)と「記録等事務委託制度」が開始されてから、4日で1カ月が経った。同制度に基づいて国から認可を受けた指定整備事業者らは「記録等事務代行者」として、車検時に電子車検証の記録更新などを事業所から運輸支局に電子申請できるようになった。認可を得た指定整備事業者や業界団体関係者の話をもとに、今後の期待や課題を探った。

記録等事務代行者となれる対象は、指定整備事業者と、日本自動車販売協会連合会(自販連)、日本自動車整備振興会連合会(日整連)、全国軽自動協会連合会(全軽自協)、行政書士または行政書士法人。記録等事務委託制度に定められた一定の要件を満たした上で、運輸支局などに申請を行い、認可を受ける必要がある。

電子車検証の裏にICタグが貼付されている

国土交通省によると、記録等事務代行者の登録数は2022年12月2日時点で約950件。事業場名や所在地などは国交省が開設した「電子車検証特設サイト」で公表されている。

記録等事務代行者になれば、電子車検証を用いた車検手続きを行う際、従来行っていた新旧の車検証交換や検査標章の受け取りなどのための運輸支局への来訪が不要となる。OSS(自動車保有関係手続きのワンストップサービス)申請を通じて、電子車検証に貼付されたICタグの記録事項の書き換えのみといった場合などに限られるが、指定整備事業者らにとっては負担の軽減が期待できそうだ。

電子車検証の導入は登録車と小型二輪車からスタートし、軽自動車は24年1月を予定する。国交省はOSSの普及促進に弾みをつけたい考えだ。

記録等事務代行者になれば、電子車検証の記録更新や検査標章の発行などを事業所で行うことが可能となる

ただ、電子車検証の記録更新や運輸支局への来訪不要など電子化のメリットを享受できるのは、早くとも来年から。しばらくは、従来の車検証から電子車検証への切り替えなどで運輸支局に出向く必要がある。

記録等事務代行者の認可を受けた長野県内のある指定整備事業者の代表者は、1月4日に車検証の再発行で運輸支局を訪れた際、通常は約5分の待ち時間が電子車検証への切り替えのためか約20分を要した。別の日には、運輸支局から電子車検証への更新可能通知を受けて出向いたが交付準備が整っておらず、数日後に再度来訪して受け取ったケースもあったという。

別の指定整備事業者の代表者は「われわれだけでなく、運輸支局の現場も電子車検証の開始直後で手続きなどに不慣れなため、多少の待ち時間や混乱はあるだろう」と理解を示す。「車検台数が増える3月の繁忙期も同じ状態だとしたら早めの行動が必要だ」と、長野県の指定整備事業者の代表者や業界団体関係者は指摘する。

全国自動車整備協業協同組合協議会(全整協)の塚本義人会長は、代表理事を務める長崎県壱岐市の協業組合を例に「(離島のため)今は新しい車検証が手元に届くまで郵送で3日はかかる」と実情を話す。「記録等事務委託制度によって運輸支局まで遠距離の指定整備事業者は利便性が格段に高まる」と期待を寄せる。

記録等事務代行者の対象となっている業界団体も対応を進めている。自販連は、全国52支部のうち28支部で認可を得た(各県内の事務所を含めて計42支部・事務所、1月26日現在)。残りの支部や事務所も準備が整い次第、順次申請を行う予定としている。

 自販連会員の中には、すでに個社で認可を得ているケースもある。ただ、現時点では「実務の状況や現場の負担、コストなどを見極めてから」と、申請を様子見しているディーラーも少なくないようだ。

各県で会員企業の考え方や市場規模、店舗数、支部の人員体制など地域事情が異なることもあり、どういった体制を整えることが会員企業と支部にとって最適なのかなどを各支部で協議しながら順次進めていくことになりそうだ。

日整連では今後、全国の支部で記録等事務代行サービスをできるよう申請を行う予定だ。記録事務等代行者の会員事業者が事務機器の不具合などで一時的に業務の遂行が難しくなった場合に備えるものとし、「緊急避難的な対応としての体制」(日整連)とする。

電子化に伴う業務負担の軽減や業務効率化を行政側は強調するが、「そもそも事業者自らが電子車検証の書き換えなどをすることがわれわれにとって効率化と言えるのか」(あるディーラーの代表者)と指摘する意見もある。

電子車検証の記録変更を行う際、誰を責任担当者とするべきなのか悩む声も聞かれる。電子車検証の記録事項を個人情報の一つとして位置付けている場合、簡単にアクセスできることはコンプライアンス上で問題があると考えられるからだ。管理体制を厳格化することも手だが、現場の負担となっては本末転倒だ。

指定整備事業者やユーザーがパソコンやスマートフォンで電子車検証の情報などを確認できる「車検証閲覧アプリ」は、機種変更するとアプリの再インストールとICタグの再読み込みが必要で、使い勝手の改善を求める声も上がっている。

事業者・業界団体と行政がそれぞれ電子化のメリットを享受し、円滑で効率的な業務を遂行できるようになるには、まだまだ改善や見直しが求められそうだ。自動車ユーザーの利便性向上に向けた取り組みも欠かせない。

(平野淳、村上貴規)

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)2月6日号より