DXで地域公共交通ネットワークの「リ・デザイン」を進める(自動運転バス)

2023年版の国土交通白書は、政府全体でデジタル社会を推進していることを踏まえ「デジタルで変わる暮らしと社会」をテーマとした。防災、交通、まちづくり、物流、インフラなどの各分野における課題とデジタルの役割を紹介するとともに、国土交通省の今後のデジタル化に関する施策の方向性を示した。

近年、急速に進展しているデジタル技術。国際社会、社会情勢、企業活動、国民一人ひとりの日常生活に至るまで、そのありようを変化させ、コロナ禍を機に行動変容が一段と加速した。一方で、人口減少・少子高齢化による地域公共交通の衰退やドライバー不足、気候変動に伴う自然災害の激甚・頻発化、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)などの社会課題の解決は待ったなしだ。

一定条件下で「レベル4」(特定条件下における完全自動運転)の公道走行が可能になった

解決の一助として、政府が積極的に推進しているのがデジタルトランスフォーメーション(DX)。社会課題解決の切り札とするだけはなく、新しい付加価値や成長の源泉としてデジタル技術を位置づける。ただ、官民ともにデジタル人材の育成・確保はこれからの課題だ。

国交省が進めるデジタル施策は「まちづくり」「防災」「交通」「インフラ」「デジタルプラットフォーム」「物流」の各分野にわたる。国民の利便性向上と行政の業務効率化を図るため、行政手続きのデジタル化も急ぐ。

交通分野のデジタル化施策は、交通事業に変革を促すとともに、行政の制度や規制のあり方を見直す契機ともなっている。代表的な例が自動運転の実現に向けた取り組みだ。今年4月1日から改正道路交通法が施行され、「レベル4」(特定条件下における完全自動運転)の自動運転車や自動走行ロボットの公道走行が解禁となった。走行場所や事業者の運営体制など一定の条件を満たす必要はあるが、無人の自動運転車を用いたサービスの展開が本格的に幕を開けた。

国交省は18年4月に「自動運転に係る制度整備大綱」を策定。「レベル3」(条件付き自動運転)以上の自動運転の実用化を図るのに必要な法整備を行うとともに、一般道路や「道の駅」での自動運転サービスの実証を通じ、技術と制度の両面で自動運転車による公共交通サービスの導入に向けた取り組みを推進してきた。今年度を「自動運転元年」と位置づけ、実証地域をさらに増やしていく方針だ。

人口減少やコロナ禍によるライフスタイルの変化などで公共交通サービスの維持が困難になる地域が増えている。国交省では、MaaS(サービスとしてのモビリティ)や自動運転などの社会実装に加え、法制度や予算・税制措置などの政策ツールをフル活用し、地域公共交通ネットワークの「リ・デザイン」(再構築)を推進する。地域の関係者の連携・協働(共創)を通じて「交通DX」を加速させたい考えだ。

物流分野でもDXを加速する。物流業界では、24年にトラックドライバーに対する時間外労働の上限規制適用を控えて、担い手不足が深刻化し、輸送力が大きく落ちることが懸念されている。このため、物流施設の自動化やドローン(無人航空機)物流の実用化、物流・商流データ基盤の構築や物流に関する標準化を進めていく。

白書では、デジタル化の重要性を示しつつも、「やみくもに推進するのではなく、直面する課題を明確にした上で、デジタル化の特性を踏まえつつ取り組むことが必要」とも説く。デジタル化による豊かな暮らしと社会の実現は、国民目線なしでは決して成し得ない。幾度となく起きる個人情報流出への疑念や、マイナンバーカードをめぐる騒動からも明らかだ。DX効果を具体的に提供しつつ、ステークホルダー(利害関係者)のベクトルを合わせて開発や普及を進めることが欠かせないと言えそうだ。

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)9月16日号より