政府が電気自動車(EV)時代を見据えた車載電池戦略に本腰を入れ始めた。国内での生産工場立地に対する補助金制度を新設したほか、製造から廃棄までに排出される二酸化炭素(CO2)の総排出量を明示する「カーボンフットプリント(CFP)」の算定基準づくりにも乗り出すなど、本格普及に備えた戦略を取る。一方、特定国への依存度が高いレアメタルの確保や現状が不透明な電池のリユース・リサイクルなど課題も多く、「(国として注力するのが)遅すぎるし、補助金支援も足りない」(有識者)など手厳しい声も聞かれる。電池で日本企業の存在感を示せるか、今が瀬戸際だ。
電池をめぐる国際競争は激しさを増している。中国、韓国では基準を満たした電池工場に軽減税率を導入したほか、米国は2028年までに70億㌦以上を電池のサプライチェーンに投資すると決めた。背景には、世界的なEVシフトでリチウムイオン電池(LiB)を中心とした車載電池市場の急進が見込まれていることがある。経済産業省の「蓄電池産業戦略中間とりまとめ」によると、30年の世界市場は19年の8倍以上となる約33兆円規模と予想する。
一方、日本企業の車載電池におけるシェアは近年低下傾向にある。15年には4割以上あったシェアは、中韓勢の猛追により20年には約2割に半減した。
EVの戦略物資である電池でシェアを落とすことは、日本の自動車産業全体の凋落にもつながりかねない。この現状を踏まえ、政府は国内の生産工場に対する1千億円規模の補助金制度を創設した。今後、支援額の拡充も検討しており、国内における生産能力を30年には現状の1.5倍となる150㌐㍗時に引き上げる考えだ。
国内に生産工場を誘致するには、日本のEV市場自体の拡大や製造時に用いる再生可能エネルギーの価格低減などが必要になる。加えてレアメタルなどの原材料を確保できるかどうかが生産能力を左右することになる。電池材料のコバルトやリチウムは産出国が中国やコンゴなど特定の国に偏っている。加えてスマートフォンなど他の領域での需要も増えていることから埋蔵量が減少しており、「23年からリチウムが、25年からはコバルトがそれぞれ供給不足のフェーズに入る」(SOKEN古野志健男エグゼクティブフェロー)との見方もある。供給量が減れば価格の上昇は避けられず、政治情勢に調達の有無が左右される可能性もある。材料の安定的な確保に向け、経産省は鉱物の選鉱、製錬を国内で実施する企業の支援を行うなど、サプライチェーンの上流を押さえようとしている。
合わせて経産省が力を入れているのが、電池のCFP算定の基準づくりだ。欧州連合(EU)が24年以降にCFP表示の義務付けを検討しており、対応が遅れれば、日本企業の電池を輸出できなくなる可能性がある。特に電池は使用するエネルギー量が他の部品よりも大きく、排出するCO2も多いことから、早急に基準を算定する必要がある。すでに材料調達から使用後のリユースまでの4フェーズでCFPを算出する実証を始めており、この結果を基準づくりに反映していくとみられる。
また、使用後処理においては、普及台数が増えてくることを見据え、流通経路が不透明なリユース、リサイクルの実態を明確にすることも必要になりそうだ。
まずは30年を指標に動き出した日本の電池戦略だが、海外勢に後れを取っている現状から「補助金の支援額が全然足りない」(有識者)との声も少なくない。自民党の「未来社会を創出する、バッテリー等の基盤産業振興議員連盟」が総額3兆円の基金創設を経産省に求めるなど、政府与党からも同様の声が挙がる。
諸外国が国策として電池産業を捉えていることを踏まえ、日本もさらなる強力な政府支援を進め、官民一体で取り組む必要がある。
(村田 浩子)
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)8月16日号より