車載半導体の国内での調達体制が増強される。台湾の半導体受託生産(ファウンドリー)大手の台湾積体電路製造(TSMC)は6日、熊本県に第2工場を建設すると正式に発表した。新工場にはソニーの半導体子会社とデンソーが追加出資するとともに、新たにトヨタ自動車も出資する予定だ。トヨタなども出資するラピダスは北海道千歳市に次世代の先端半導体を製造する工場を建設している。電動化や知能化で高性能な車載半導体が求められる中、日本政府の支援も追い風に、国内で車載半導体を安定調達する体制の整備が進む。
TSMCの第2工場は、現在建設中で2024年に生産開始する予定の第1工場の近隣に建設する。27年末までに回路線幅が6または7㌨㍍(1㌨㍍は10億分の1㍍)の半導体を製造する。第1工場と合わせた生産能力は300㍉㍍ウエハ換算で月間10万枚以上。総投資額は200億㌦(約2兆9600億円)で、日本政府から追加で補助金を受け取る予定だ。
熊本工場を運営するため、TSMC、ソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソーが出資して設立した「ジャパン・アドバンスド・セミコンダクター・マニュファクチャリング(JASM)」は、第2工場の建設に向けて増資する。3社が追加出資するとともに、先端の車載用ロジック半導体の安定調達を目指すトヨタも加わる。出資比率はTSMCが86.5%、ソニーセミコンが6%、デンソーが5.5%、トヨタが2%。
TSMCは先端半導体の製造で世界トップだが、生産拠点が台湾に集中しており、台湾有事が懸念される中、日本や欧州へ生産拠点の分散を進めている。熊本第1工場の建設で素材、製造装置の安定調達や工場運営のインフラが整っていることを確認。さらに、日本の基幹産業である自動車産業で、自動運転・先進運転支援システムや電動化で先端半導体の需要が見込まれることから第2工場の建設を決めた。TSMCは熊本第3工場の新設も視野に入れている。
国内では、ラピダスが日本政府から巨額の補助金を得て千歳市に2㌨㍍の先端半導体を製造する工場を建設している。ラピダスには高性能半導体を車載用に活用することを想定し、トヨタも出資している。他にもSBIホールディングスは台湾のファウンドリーである力晶積成電子製造(PSMC)と共同で宮城県に半導体製造拠点を建設する。27年の稼働を目指しており、車載向けを主力ターゲットの一つに据える。
半導体不足で、長期間にわたって自動車の生産停止や減産を余儀なくされてきた自動車各社は従来、ティア1(1次部品メーカー)任せだった半導体の調達に関し、直接取引に乗り出すケースが増えている。また、車載半導体は「レガシー半導体」と呼ばれる旧世代品が中心だったが、クルマの知能化や電動化に伴い、高性能な半導体が必要になってくる。
先端半導体を安定調達したい日系自動車メーカーと、先端半導体の需要が見込めるエリアに生産拠点を分散したい半導体メーカーの利害が一致、国内に先端半導体の調達体制が整う。
ただ、熊本第1工場の投資額約1兆1千億円に対して政府は4760億円の補助金を拠出する。第2工場への補助金は7500億円規模と見られる。政府はすでに3300億円の補助金支給を決めているラピダスに今後も研究開発費や工場建設に巨額の補助金を投じる予定だ。補助金頼みの半導体の国産化には市場を大きく歪めるリスクもある。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)2月8日号より