Q ビッグモーター問題が世間を騒がせているね
A 問題の発端は昨年、一部のメディアで報道された自動車保険金の不正請求疑惑でした。事故車修理の際、損傷していない部位まで板金・塗装(BP)の作業をしたように見せかけ、不正に保険請求額を水増していたというものです。取引先の損害保険会社3社はそれぞれ調査を進めるとともに、ビッグモーターに対して社外説明をするよう求めていました。
Q で、ビッグモーターはどんな対応をしたの?
A 損保各社からの度重なる強い要請を受けて、今年1月30日に外部弁護士による特別調査委員会を設けました。しかし、対外的には自社ホームページのインフォメーション欄に一文を掲載したのみでした。次に動きがあったのは7月5日。これもホームページに「調査報告書受領のお知らせ」と題した非常に簡略な内容を掲載しました。
Q ホームページのお知らせはどんな内容だったの?
A 「調査で保険金請求に不適切な行為があったと認められた」とし、特別調査委員会から提言された再発防止策を簡略に5つ、箇条書きしただけのものでした。調査報告書そのものは非公表でした。
Q それじゃあ説明責任を果たしていないね。不正に至った理由を一番知りたいのは顧客なのに
A 紹介した2つのお知らせは今でも閲覧できますが、最初にあるべきはずの顧客に対する謝罪の言葉がありません。不正請求した顧客への対応も説明はなく「顧客不在」の企業姿勢が際立っていました。メディアの問い合わせも一切無視し続けていました。そもそも同社には、広報部門が存在しなかったと言います。
Q 「黙殺戦略」から一転して調査報告書の公表と経営陣の記者会見に至った理由は
A いろいろあるでしょうが、契機の一つは7月18日に行われた斉藤鉄夫国土交通相の記者会見でしょう。記者から調査報告書の件を問われ「われわれも知らされていない」と、疑惑に対して沈黙を続けるビッグモーターの企業姿勢を厳しく批判しました。実は、国交省では6日、同社に対して「任意聴取をしたい」と伝えていましたが、正式な回答はずっとないままでした。
Q だから調査報告書を18日夕に突如公表したの?
A 調査報告書に記載された事故車修理の不正行為は多岐にわたります。BP部門の社員を中心に実施した任意のアンケート調査の結果に基づくもので『不正行為は2020年以前から行われていた』との回答が目立ちました。不正行為を行った理由は「上司からの指示」が最多でした。そもそも特別調査委員会がビッグモーターに調査報告書を提出したのは6月26日。ホームページで「受領した」とのみ公表したのが7月5日です。この対応からして、沈黙を続けて報道が沈静化するのを待とうとした思惑が透けて見えます。
Q 25日の記者会見までも時間がかかっているね
A 会見では、兼重宏行社長と3人の経営幹部が出席し、保険金不正請求など不正行為について組織的関与を否定しました。兼重社長は「(調査報告書を見るまで)知らなかった」と強調し、不正行為は現場での判断によるものとのことです。しかし、昨年1月頃に社員が不正行為を経営陣に告発したことが判明しています。また、記者会見では26日付で兼重社長と長男の宏一副社長の辞任も合わせて発表されました。
Q 経営陣の一部刷新だけで問題は収束に向かうの?
A それはあり得えないでしょうね。現に今もビッグモーターに関する報道は続いています。兼重親子はビッグモーターの経営陣から外れたものの、同社の株式を100%保有する「ビッグアセット」の取締役で、今後も実質的な支配が続く可能性が指摘されています。保険金不正請求をはじめ、さまざまな不正または問題行為で関与が疑われている宏一氏が未だ公式の場で説明責任を果たしていないことも監督官庁やメディアの神経を逆なでしています。元社員による証言などで、車両販売、買い取り、車検での不正行為のほか、前副社長と取り巻きの幹部による社員へのパワハラ、店舗前の街路樹に除草剤を故意に撒いて枯死させるなど次々と驚くべき不正行為が明るみになっています。
Q この間、政府はどんな対応をしているの?
A 国交省は7月26日、ビッグモーターの新経営陣に任意聴取を行うとともに、28日には道路運送車両法に基づいてBP設備を備える34店舗に一斉立入検査を実施しました。金融庁は同31日、保険業法に基づく報告徴求命令を同社と損保7社に出しました。これらは保険金不正請求問題に関するものです。
国交省では別途、道路運送車両法に基づき、自動車検査(車検)など「特定整備」部門での不正事案の有無について調査と報告をするよう求めています。消費者庁は8月3日、内部通報体制に不備があるとして、公益通報者保護法に基づく報告を求めました。加えて、今後は保険金不正請求などの被害者救済・予防に向けた取り組みを進めることも公表しています。
Q 保険金不正請求問題で、損保会社も被害者だよね?
A 現時点で、単純にそうとは言い切れないところに、ビッグモーター問題の根深さがあります。中でもビッグモーターに37人を出向させていた損害保険ジャパンに対し、金融庁は①ビッグモーターへの出向者の役割②事故車の紹介を早期再開した経緯―などについて報告徴求命令を追加しています。今後、これらの事実関係や狙いが判明することで、金融庁の対応も決まることでしょう。また、損保ジャパン側でも、親会社のSOMPOホールディングスが社外調査委員会を設置しました。グループでもこの問題を深刻に捉え始めた証(あかし)と言えます。
Q 最終的にビッグモーター問題はどう決着しそう?
A まだ事案の全容解明が済んでいないため、現時点では確かなことは言えません。仮に、特定整備部門で道路運送車両法違反が確認されれば、指定整備事業の指定取消処分や一定期間の事業停止、整備士の懲戒命令などが考えられます。現在疑われているさまざまな不正行為の調査と行政処分の判断は、複数の監督省庁にまたがっています。不正行為の内容しだいでは、警察庁などが対応するケースも出てくるかもしれません。
また、相次ぐ不祥事を受け、中古車情報サイトは掲載を見合わせ、ジャックスなどのクレジット会社は取引を打ち切り、取引金融機関は借り換え融資を見送りました。ビッグモーターは数百億円の現預金や流動資産を抱えており、すぐには経営に行き詰まることはないでしょう。ただ、中古車販売や買い取りは事件前の半分以下に減っているとも報道されています。まずは保有資産を切り売りして延命しつつ、経営の立て直しを図りたいところでしょうが、前途は険しそうです。中古車業界では「ビッグモーターの在庫が投げ売りされることでオークション相場が影響を受けるのでは」との見方もあります。
※日刊自動車新聞2023(令和5)年8月16日号より