Q CEV補助金とはどういうもの?
A 正式名称を「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」と言い「Clean Energy Vehicle」の頭文字を取って「セブ補助金」とも呼ばれます。歴史は意外と古く、初代「プリウス」の発売に合わせ1998年度にできました。ガソリン車より割高なエコカーに補助金を出すことで初期需要を増やし、省エネや環境対策、産業振興に役立てる狙いがあります。CEVの定義は普及度合いなどを考慮して定期的に見直されており、今は電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、電動二輪車などが補助対象です。財源にはこれまで「エネルギー対策特別会計(エネ特)」の一部が充てられていましたが、今後は「グリーン・トランスフォーメーション(GX)経済移行債」が財源になります。このため、今年度予算は1076億円と、前年度当初の5倍になりました。
Q CEV補助金の算定基準が4月から新しくなったと聞いたけど?
A その通りです。まず、支給金額が変わりました。これまではEVは85万円、PHVと軽EVは55万円といった形でパワートレインごとに補助額が一律で決まっていました。しかし4月からは補助額が5~6段階に分かれ、一部の高額車を除いて同じパワートレインでも最大で70万円の差が出ます。
Q 補助額はどうやって決めるの?
A 補助額を決めるプロセスも大きく変わりました。これまでは車両の性能や価格だけで決まっていましたが、今年度は、これまでの「車種ごとの取り組み(性能)」に加え、そのクルマを製造・輸入する「企業の取り組み」が評価対象に加わったのです。この2つの取り組みを全7項目・200点満点で審査して補助額が決まることになります。
Q 評価項目にはどんなものがあるの?
A 配点が大きいものだと、車両の電費性能と一充電当たりの走行距離、急速充電器の整備状況、ディーラーや提携工場における整備体制などです。このほかにも、車両のサイバーセキュリティー対策や、電池のリサイクルに向けた取り組みなども評価対象です。
Q 補助額の内訳を見ると、輸入車の減額が目立つね?
A 評価結果は非公開ですが、各社の公開資料から分析すると、評価に差が出たのは急速充電器の項目のようです。ディーラーを中心に急速充電器の設置を進めている日本メーカーに対し、海外メーカーは出遅れている状況です。実際、EV「アット3」を販売する中国メーカー・比亜迪(BYD)の日本法人は、国内で充電器を15基程度しか持っておらず、補助額が半減してしまいました。この結果を聞いたBYDオートジャパン(横浜市神奈川区)の東福寺厚樹社長は「ショッキングな通知だった」と落胆を隠しませんでした。
Q 「日本の税金で輸入EVを補助するのはいかがなものか」という意見も昔からあると聞くよ?
A そういう声も確かにあります。実際、国会で野党が問題視したこともありました。自由貿易を推進する立場として、国産車を露骨に優遇することは認められませんが、昨年度は税別で840万円以上の高価格帯の車両の補助額を2割減額する措置が取られました。高額EVの大半は輸入車です。あるインポーター(輸入業者)のトップは「国産車贔屓(びいき)なのでは」と批判的でした。
Q 確かに税金で輸入車の普及を後押しすると、国産EVが売れなくなるんじゃないの?
A 先ほど申し上げたとおり、日本は自由貿易を推進する立場です。WTO(世界貿易機関)のルールのひとつとして、輸入品と国産品を差別してはいけない「内外無差別原則」を守らなければなりません。自動車に限らず、自国産品を守ろうと税金や補助金で露骨に優遇すると輸出入が滞り、経済のグローバル化にも逆行してしまいます。
しかし、米中や南北など、世界で〝分断〟が進んでいることもまた、直視せざるを得ない現実で、各国が「経済安全保障体制(経済安保)」の整備を急いでいます。経済安保は〝軍事力を使わない戦争〟とも言われ、先端技術や資源を、あたかも武器として他国を圧倒するために使おうとする国もあります。電池を含むEVも先端技術のひとつで、中国や米国は、自国産EVが有利になる補助制度を展開しており、内外無差別のルールが崩れつつあるのも事実です。こうなると、自動車や電池メーカーはどの国に投資したら良いのか、余分な悩みを抱え込むことになります。この困った状況を打開しようと、日本は「産業振興策の基準を擦り合わせよう」と米国や欧州に提案しています。
Q CEV補助金はいつまで続くの?
A 政府は「2035年に新車販売を電動車100%にする」と言っています。電動車にはハイブリッド車(HV)も含みますが、経済安保政策を考えると、EVをもっと増やす必要もあるでしょう。EVは車両価格がまだまだ高く、新車販売におけるEV比率も2.1%(23年度、乗用車ベース)のため、少なくとも数年はCEV補助金が続くと考えられます。しかし、補助が延々と続くのも考えものです。補助金の原資は結局、われわれ国民が支払っており、医療や社会保障、教育など、他に予算を使ってほしい分野もたくさんあるからです。国はもちろん、自動車メーカーにも補助効果を最大限に生かし、エコカーを自律的に普及する価格へと引き下げる努力が求められそうです。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)5月2日号より