持ち合いを解消するサプライヤーも

自動車メーカーがEV時代を見据えてケイレツサプライヤーを見直していくことが見込まれる中で、内燃機関や燃料系、排気系など、EVで不要になる部品を主力とするサプライヤーも将来を見据えた対応に乗り出している。

エンジン内でガソリンを燃焼させるための点火装置であるスパークプラグで世界トップの48%のシェアを持つ日本特殊陶業は、メガサプライヤーのデンソーからスパークプラグ事業と排ガスに含まれる酸素を計測するO2センサー事業を譲り受けることを検討する。EVの普及でスパークプラグやO2センサーの市場は縮小する。両社の事業を統合して生産体制を最適化するなどして収益力を強化する。

デンソーは、主要取引先のトヨタがEV関連事業を強化していることもあって、内燃機関向け部品事業を縮小し、その分を駆動用モーターやインバーター、パワーコントロールユニットなどの電動車向け部品事業に経営資源を振り向ける。

エンジン部品であるピストンリングを手がけるリケンと日本ピストンリングは今年10月に経営統合する。経営統合後のピストンリング市場での世界シェアは約3割になる。ピストンリング市場は縮小が予想されるが、同業の経営統合で開発や生産を効率化し、競争力の高い製品を展開、ライバルの需要を取り込んでいくことを狙う。経営統合することで、自動車メーカーとの価格交渉力を強化する狙いもある。

垂直統合ビジネスの典型とされる日本の自動車産業は、ピラミッドの頂点に君臨する自動車メーカーが全体を統括して、ケイレツサプライヤーがその傘下に置かれる。部品メーカーは自動車メーカーが求める競争力の高い部品を供給するとともに、原価低減にも協力して高品質で低コストな自動車を生産するなど、ケイレツが日本車の競争力の源泉となってきた。

これに対して部品点数が少なく、構造も簡単なEVは自動車メーカーが設計・開発の主要部分を担当して、サプライヤーが適した部品を供給する水平分業型が主流になるとの見方もある。水平分業では、サプライヤーにとって自動車メーカーは単なるビジネスの相手で、無理な値下げ要求などに応える必要はなくなる。

デンソー、日本製鉄はそれぞれ、前期末までに保有していたスズキの株式をすべて売却した。今年6月のスズキの定時株主総会では株主から、これを懸念する声が上がったが鈴木俊宏社長は「株式の持ち合いではなく、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングサービス、電動化)の取り組みは(取引先と)実務の面で密にしていかないと立ち行かなくなる」と述べ、政策保有株に関係なく、先進技術の領域でサプライヤーとの連携強化が重要との見方を示した。

EV時代を見据えて自動車メーカーはケイレツのサプライチェーンを再構築していくとみられるが、水平分業が進めばEVで重要な技術を持つサプライヤーから自動車メーカーは取引相手として選別される立場になる可能性もある。EV時代に合わせて自動車メーカーは「馴れ合いの関係」から「大人の関係」へと意識改革しなければ、手痛いしっぺ返しを喰らうことになりかねない。

(編集委員 野元政宏)