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スズキ、インドで牛糞由来バイオガスを燃料に 脱炭素・雇用拡大・CNG活用 カギは採算性

牛糞(ふん)由来のバイオガスをインドで自動車燃料として普及させる構想が注目されている。牛の多いインドでは、1日に約3200万台の車を動かす潜在的なエネルギーがあるという。インド市場シェアトップのスズキはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)、雇用拡大などの経済効果、圧縮天然ガス(CNG)活用の〝一石三鳥〟を目指し、地元政府系機関などと実証を進める。技術開発のほか、エネルギーとともにできる肥料を販売するなど採算を高めて構想の実現を目指す。

 スズキは、2030年度までに日本、欧州、インドで電気自動車(EV)17車種を売り出す計画だが、多様なパワートレインを用意する「マルチパスウェイ」戦略のもと、EV以外の〝選択肢〟も捨てていない。

同社の主力市場でもあるインドは、エネルギー安全保障や大気汚染対策の面からCNG車が普及している。新車販売に占める割合(乗用車)は20年度が6.3%だったが、直近では14.1%(2623年4~9月)と2倍以上に。乗用車シェアで5割を握るスズキも全20車種(商用車含む)中、17車種にCNG車を設定し、CNG車比率は20年度の12%から26%(同)に高まった。乗用CNG車でスズキのシェアは75%に達する。

インド政府はこのCNG車に着目。バイオマス(生物由来)資源の一種である牛ふんをメタン発酵させ、可燃性のガスをCNG車の燃料として活用することが期待されている。牛はインド国内に約3億頭いる。排出される牛ふんをすべて自動車燃料に回すと1日に3200万台ものCNG車を動かせる計算になるという。また、牛ふんに含まれるメタンは、二酸化炭素(CO)の28倍の温暖化効果があるとされる。燃料としての活用はメタンの有効活用につながる。バイオガスを取り出した後の残さは有機肥料として利用できる。

 スズキは23年9月には、インドの乳業メーカーであるバナスデイリー、インド政府関係機関の全国酪農開発機構(NDDB)との間でバイオガス精製工場の設立で合意した。約23億㍓(約40億円)を投じ、25年からバイオガス充てんステーションを併設した製造工場をインド国内に4カ所、建設する。

スズキ経営企画室コーポレート戦略部CN推進グループの山野博之氏は、課題として「精製、製造で発生する『ガス』と『肥料』の収益で、どう事業を成り立たせていくかが重要だ」と話す。

車両側の技術開発というより、牛ふんを効率良く集める工夫や、ガスの製造効率を高める技術開発などがカギになりそうだ。

 バイオマスエネルギーは食料との競合など紆余曲折をたどりつつも、世界的に着実に利用が増えている。自動車業界では、国策としてサトウキビ由来のエタノール燃料を普及させたブラジルの事例が有名だ。タイでは、トヨタ自動車が鶏ふんや廃棄食料由来のバイオガスから水素を製造する取り組みを進めている。

スズキのバイオガス事業は「カーボンニュートラルの達成に向けて地域に適したものに取り組んでいく必要もある。スズキ1社ではできないため、外部との連携も深めていく」と話す鈴木俊宏社長肝煎りのプロジェクト。EV一辺倒のリスクを回避し、インドの経済や雇用にも寄与する燃料に熱い視線が注がれている。

(織部 泰)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)1月29日号より