ソニー・ホンダモビリティは米ラスベガスで開かれた「CES2024」で「アフィーラ」の車内空間と走行シミュレーションのデモンストレーションを実施した。人工知能(AI)を用い「人とモビリティの調和」を標榜(ひょうぼう)する。実際に一部機能を体験すると、これまでの発想にはないモビリティの姿が確かに垣間見えた。
アフィーラの最新プロトタイプは、昨年のCESで初披露後、米国法規に合わせてドアミラーなどを追加した量産車に近い仕様だ。とは言え、滑らかなボディー形状など「ニュートラル」なデザインはそのままだ。
アフィーラにはドアノブがなく、Bピラー(支柱)に搭載されたカメラが人を検知してドアが開く。買い物袋で両手が塞がっていれば後部ドアを開けるといった機能も視野に入れている。
車体に乗り込むと、ダッシュボードに横一面並ぶモニター「パノラミックスクリーン」が目に飛び込んでくる。ドライバー好みの「テーマ」をカスタマイズでき、間接照明やモーター音などとも連動する。例えば「スパイダーマン」を選択すると、背景に蜘蛛のロゴが加わり、ライトも暖色系に変わる。テーマは自由にクリエイターがカスタマイズできるという。スマートフォン(スマホ)の壁紙や着信音のようなイメージだ。
車載スピーカーはシート内部にも組み込まれ、映画を再生すると迫力のある立体音響に包み込まれた。CESでは川西泉社長が「プレイステーション5(PS5)」のコントローラーで車を操るデモも披露したが、車内でもPS5を楽しめる。好きなコンテンツやアプリをインストールすれば、充電時間でも自室にいるように楽しめる気がした。
続いて「アドバンスシミュレーター2024」に移り、アフィーラでのドライブを疑似体験する。
シミュレーター正面には街並みを再現した映像が表示され、車内モニターにはそれに対応した「ADAS(先進運転支援システム)ビュー」が表示される。車両の周囲360度をカメラやセンサーで漏れなく検知し、接近する歩行者や車両を赤枠で表示してドライバーに知らせる。将来的には飛び出しや車両の割り込みを伝える機能も視野に入れる。ADASは機能を高め、レベル3(条件付き自動運転)を目指している。
一方、助手席側の「AR(拡張現実)ナビゲーション」では、現実の映像とアニメーションなどを合成した映像を楽しめる。デモでは、視界にモンスターが合成的に表示され、それを捕まえるゲーム機能なども披露された。米エピックゲームズの3Dゲーム制作ツール「アンリアルエンジン5」で制作された。
アフィーラはクルマの「知能化」を前面に打ち出す。水野泰秀会長は「どんどん賢くなり、自分(ユーザー)の色に染まっていく」と説明する。さらに生成AI(人工知能)による自然な会話を通じ、乗員の意図をクルマが理解することを目指すという。
既存の自動車のように走行性能の追求とは明らかに一線を画すアフィーラ。2026年の北米での生産開始後、「双方向のコミュニケーション」が人と車の距離感をどのように変えるのか。暮らしの「相棒」として迎え入れるユーザーを少し羨ましく感じた。
自分の暮らしや生活習慣になじんだアフィーラが、唯一無二の存在として競合車を退けることができれば、ソニー・ホンダモビリティの努力が結実したことになりそうだ。
(中村 俊甫)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)1月16日号より