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ダイハツ・井上雅宏社長の言葉から 開発期間は延びるが「良品廉価」を維持して競争力

3月1日にダイハツ工業のトップに就任した井上雅宏(いのうえ・まさひろ)社長。認証不正問題を受け、2月には再発防止策を策定、4月には新たな事業方針を固め、小型車の開発から認証までトヨタ自動車が責任を持つ形とした。着実に実行して、認証不正問題からの経営再建を図る。24日までに日刊自動車新聞などのインタビューに応じた井上社長の言葉から、ダイハツの現状や将来の方向性などを読み解く。

「良品廉価なダイハツのものづくりは新興国にとってストライクゾーン」とし、ダイハツに期待を込める井上社長

「真面目でありすぎるがゆえに、背伸びしすぎた」

2023年4月28日に海外車種での認証不正が発覚したダイハツ。こうした不正が、現行車種と生産終了車種合わせて64車種・3エンジンに広がっていたことを12月20日に明らかにした。

ダイハツがトヨタグループの「新興国小型車カンパニー」としての役割を担うことになり、小型車のモデル数や台数、仕向け地などが拡大したことや、短期開発スケジュールの進行、そこに人材不足、「できない」と言えない組織風土などが重なり、しわ寄せが生じた認証業務で不正が起こった。井上社長は「ある時点で『無理だ』と言わないといけなかったが、縦割り・機能軸が強すぎた。そういう傾向があったと理解した」と話す。

同社では、部門を横断させるクロスファンクションミーティングの頻度を高めるとともに、全社のガバナンス、リスク管理、コンプライアンスなど横断する「GRC推進部」を4月に設置することで、縦割りや機能軸が強い組織を変えていく。

「事業活動を元に戻さないと、日本地域の経済に負の影響を与えてしまう」

大規模な不正が発覚し、国内全工場の稼働を停止。工場を構える地域経済への影響も大きい。帝国データバンクの調査によると、ダイハツ関連の取引先による売上高合計では、トップの愛知県(対象2084社/5674億円)に次いで、ダイハツ九州がある大分県(同89社/4800億円)が2番目に大きかった。企業数は大阪府(1043社)や東京都(562社)に比べて少ないものの金額規模が大きく、ダイハツ九州との取引比率の高い部品メーカーなどが多いとみられる。井上社長は「再発防止策に取り組み、反省すべきところは反省して、生産活動を元に戻していく」と語る。

国土交通省による道路運送車両法の適合性確認試験では、型式取り消しとなった「グランマックス」、OEM(相手先ブランドによる生産)車のトヨタ「タウンエース」、マツダ「ボンゴ」(いずれもトラックタイプ)を除くすべての現行車種で解除された。販売店の新規受注も再開し、仕入れ先の工場を含め、徐々に回復していくとみられる。

国交省からの出荷停止指示が解除され工場も稼働を再開している(写真は京都工場)

「超短期開発は諦めざるを得ないが、良いものづくりで競争力を」

不正の遠因となった軽「ミライース」では、17カ月という超短期間開発を実現。これが成功体験となり、以降も短期開発が求められるようになった。

再発防止策では新型モデルの開発標準日程を従来の約1.4倍に見直した。ただ、短期開発は自動車メーカーの競争力でもある。井上社長は「ミライース(のレベルの期間)にすぐ戻すことはできない。再発防止のためにやむを得ない」としたうえで「軽のものづくりをきっちりやりきって、そこそこの短期開発にして、良いものづくりで競争力を失わずにやっていく」と意気込む。

「良品廉価のものづくりは新興国にはど真ん中のストライクゾーン」

開発期間が従来よりも長くなる中で、「良品廉価」を軸に競争していくことになる。

ダイハツはこれまで、軽を起点に、A・Bセグメントを一括企画する開発設計思想「DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を展開。トヨタにはできない、軽主体のダイハツならではの手法で良品廉価な車を実現してきた。新興国の需要ともマッチし、ダイハツとトヨタは東南アジアを中心とする新興国で高いシェアを持つ。

トヨタ時代に中南米を担当していた井上社長は「新興国は東南アジアだけではない」とし、今後10年以降の長期目線で南米やアフリカでも生産拠点を持つ構想を描く。南米などは欧州のように街中は狭い道が多く、小型車の活用が広がると予測している。井上社長は「次の一手を考えるとき、新興国でのダイハツのポテンシャルを使わないともったいない」と断言。再発防止策を最優先に取り組みながら、将来を見据えた種まきにも着手していく。

(藤原 稔里)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月24日号より