新型コロナウイルスの感染が世界的な拡大で医療現場が崩壊するとの危機感が高まる中、自動車メーカーや自動車部品メーカー、素材メーカーなどが、保有する技術力や設備を活用して医療の本格支援に乗り出している。自動車メーカー各社は試作品用3Dプリンターなどを活用して医療用フェイスシールドや人工呼吸器を生産する。シャープは3月下旬からマスクの生産を開始した。デンカは新型コロナウイルス感染症への効果が期待されているインフルエンザ治療薬「アビガン」の原料生産を5月から再開する。新型コロナウイルスの感染拡大で世界中で完成車の生産が停止しているが、既存の技術や設備をフル活用して、新型コロナウイルス問題の収束に協力していく。

トヨタ自動車は4月7日、貞宝工場で試作型を使って医療用フェイスシールドの生産すると発表した。まず週500~600個程度を生産する予定で、グループ企業でも生産できないかを検討する。医療機器メーカーが人口呼吸器を増産するのに、トヨタ生産方式のノウハウ提供による生産性向上の支援も検討している。トヨタは米国や欧州などでも3Dプリンターを活用した医療用フェイスシールドを生産する。

GM(ゼネラルモーターズ)はトランプ大統領の命令を受けて医療機器メーカーと組んで人工呼吸器の生産を検討しているほか、フォード・モーターも米国内にある電池工場で人工呼吸器を製造する。ホンダやダイムラー、フォルクスワーゲン(VW)、グループPSA、ジャガー・ランドローバーなども3Dプリンターを活用して医療機器の生産を支援する。

ダイムラーが設置している3Dプリンター

新型コロナウイルス感染者の増加で、医療現場では、防護用フェイスシールドやマスク、人工呼吸器などが不足している。自動車メーカーは少量生産品や試作品を製造するのに、3Dプリンターを活用している。これら設備や技術力を活用して医療現場を支援する。

ベッドや家具、寝装品などの住生活関連事業を手がけるアイシン精機は、病院向けの簡易ベッド台、消毒液容器、医療機関などでの簡易間仕切り壁など、医療機器以外で必要な備品の生産での協力の可能性について検討中。

ロバート・ボッシュは、新型コロナウイルス感染症の検査結果を2時間半以内に判明する検査システムを開発した。臨床試験による検査精度は95%以上で、診療所、病院、検査施設、保健所といった医療機関での迅速な診断に役立ててもらう。子会社のボッシュ ヘルスケアソリューションズと北アイルランドの医療技術企業ランドックス・ラバトリーズとの協働で6週間で開発した。

ボッシュが開発した感染検査システム

医療現場を含めて社会的に不足しているマスク生産も相次いでいる。シャープは3月下旬から三重(多気)工場で、不織布マスクの生産を開始した。当初日産15万枚で、日産50万枚にまで増やす計画。液晶ディスプレイを生産しているクリーンルームを活用した。トヨタやデンソー、トヨタ紡織などは、生産拠点で働く従業員のマスクを自社生産する。生産活動でのマスクを自給自足してマスク不足の緩和に貢献する。

治療に向けた動きも出ている。カナダのDウェイブは新型コロナウイルスの治療薬開発や感染抑制の研究に役立ててもらうため、企業・団体に量子コンピューターのクラウド利用を無償提供するプロジェクトを開始した。ただ、量子コンピューターの利用には専門知識が必要。デンソーはプロジェクトに参画、量子コンピューターを使った工場の効率化シミュレーションの実証実験などの研究を行ってきた知見を生かして、治療薬を開発する企業や団体などがDウェイブの量子コンピューターを即座に利用できるようにする。短期間に世界の知恵を結集するのを支援していく。

デンカは新型コロナウイルスの治療薬として臨床試験が始まったインフルエンザ治療薬「アビガン」の原料となるマロン酸ジエチルの生産を再開する。青海工場で5月から生産を開始する予定。2017年4月に生産を停止していたが、「アビガン」の国内薬事承認を進める日本政府から国内での一貫供給体制を構築するため、国産の原料を使用したいとの要請を受けて対応する。(野元 政宏)