物流業界が抱えるドライバー不足などに起因する「2024年問題」が来春にも迫っている。物流に携わる企業はあの手この手で対策に乗り出しており、車両の開発、製造を手がける自動車メーカーも共に対応策の検討を進めている。自動車メーカーとしては、長年蓄積してきた知見を車両の開発に生かす。
物流業界では、人手不足が顕著だ。トラック運転手の有効求人倍率は全職業の平均よりも高く、人手不足が続いている。さらに2024年4月からは運転手の時間外労働時間の上限が規制され、残業時間が年960時間に制限されることになる。コロナ禍で電子商取引(EC)市場が拡大し、宅配便の取り扱いも拡大した。こうしたことから、物流が滞るといった問題が今後発生する可能性も高い。
日本自動車工業会(豊田章男会長)の9月の会見で、片山正則副会長(いすゞ自動車会長兼最高経営責任者)は「24年になると、より問題が顕在化してくる。ドライバー不足の問題は継続していくことを覚悟せざるを得ない」と指摘した。こうしたことから、大型車メーカー各社では車両開発の面から2024年問題対策への貢献を進めている。
その一つが、普通免許で運転可能なトラックを増やしていくことだ。日野自動車が昨年投入した電気トラック(EVトラック)「デュトロ Z EV」は、普通免許で運転が可能だ。いすゞも24年夏までにディーゼルエンジンを搭載した「エルフ ミオ」の投入を計画する。将来的にはEVトラックも設定していく。
17年の道路交通法の改正で車両総重量(GVW)3.5㌧以上の車両には準中型免許の取得が必要になった。デュトロ Z EVやエルフ ミオは、3.5㌧未満の車両に該当し、普通免許で運転可能だ。普通免許対応の車両をそろえることで、準中型免許を持たない新卒者やパート従業員など、ドライバー人材の裾野を広げる。
大型メーカー各社は、脱炭素に向けてEVトラックの投入を本格化し始めており、最新のEVトラックでもドライバー目線からの工夫を凝らす。例えば、速度などが表示されるメーター一つをとっても、三菱ふそうトラック・バス「eキャンター」や日野のデュトロ Z EVではフル液晶を採用している一方で、いすゞ「エルフEV」はタコメーターを残した。いすゞの開発担当者は「ディーゼルエンジン車から乗り換えた時の違和感を抑えた」と話す。事業所で複数台所有するケースもあり、乗り換えた時の負担の軽減につなげる狙いがある。
また、大型車では燃料電池車(FCV)を中心とした電動化も進められており、日野といすゞはそれぞれ市販化を見据えた実証に取り組んでいる。日野は、ネクスト・ロジスティクス・ジャパンなどと5月から実証を始めた。FCVには、スムーズな加速性や静粛性などがあり、運転手からは「(荷崩れの心配がなくなり)積み荷への負担が減る」などの意見が集まった。
10月26日から11月5日まで都内で開催された「ジャパンモビリティショー2023」では、期間累計で111万2000人が来場し、大型車メーカー4社の出展ブースにも注目が集まった。いすゞと三菱ふそうはそれぞれ、交換式電池を搭載するEVトラックと電池の交換ステーションを展示した。EVトラックは、充電時間が長時間かかる弱点を持つ。数分程度で交換できるため、充電に関する時間が短縮できるため輸送効率に貢献できると期待されている。
4社が協調して取り組むべき分野としては、高速道路などでの自動運転にも注目が集まる。自動運転の実現は運転者の負担軽減へとつながる。ただ、片山副会長は「安全を犠牲にしての効率化はあり得ない」と強調する。実装に向けては安全の担保が不可欠で慎重にはならざるを得ないものの、物流業界が抱える課題解決に向けて、自動運転の社会実装にも期待がかかる。
(織部 泰)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月20日号より