中学校の実験を覚えている人も多いでしょうが、水を電気分解すると水素と酸素になります。これとは逆に、水素に酸素を結合させると電気と熱が生まれます。この反応を連続して行う装置が「燃料電池(FC、フューエル・セル)」です。〝電池〟とは言いますが、実際は発電装置です。

燃料電池車(FCV)は水素ボンベとFCを積み、生み出した電力で走ります。電力で走る点は電気自動車(EV)と同じですが、①水素の充填時間がわずか数分で済む②航続距離がガソリン車並みに長い―などの特徴があります。

 1990年代に車載可能なFCがカナダで開発されると自動車各社は競ってFCVの開発に取り組みましたが、思うように普及が進まず、リチウムイオン電池の実用化で実用性が高まったEVに先を越されてしまいました。

しかし、「FCVはEVに駆逐される」と考えるのは早計のようです。エネルギーとして考えた場合、電力は長期間の大量貯蔵や輸送が経済的に苦手で、水素と補完関係にあります。車両としては、①②のほか、積載スペースがバッテリーに取られない利点から、商用車に応用するための開発が本格化しています。

日本は約40年前にFCの開発に着手し、世界で初めて家庭用燃料電池「エネファーム」の発売にもこぎ着けた〝FC先進国〟でもあります。国家プロジェクトとして、2030年に累計で80万台のFCV(現在は約3千台)と900拠点の水素ステーション(同約100拠点)整備を目指していますが、自動車以外でも水素発電の事業化やエネファーム500万台(同約30万台)といった目標を掲げています。

水素エネルギーの活用は、日本のエネルギー供給構造の多様化や大幅な低炭素化、難易度の高い関連技術や製品の輸出を通じた国際競争力強化の〝一石三鳥〟が見込めます。このため、長期的な視野で粘り強く開発や普及への努力が続けられているのです。