日刊自動車新聞が主要自動車部品メーカーを対象に実施したアンケート調査によると、2024年4月入社の新入社員数が「計画より少ない」と回答した企業が5割超を占めた。IT(情報技術)など業界を超えた人材争奪戦が激化しており、特に次世代技術の開発動向を左右する理系人材の採用に苦戦した企業が多かった。「地元志向」や「職場環境」を重視する学生も増えており、足元の売り手市場を勝ち抜くには、変化する学生の価値観に寄り添った採用活動も求められそうだ。
主要部品メーカー93社から回答を得た。4月の新卒採用人数が「計画通り」の企業は全体の4割だったのに対し、「計画より少ない」と回答した企業は5割超を占めた。少子化に加え、コロナ禍でオンラインやリモートでの就職活動が学生側にも定着し「(学生側の)受験企業の絞り込みが生じている」(小糸製作所)、「一人当たりの就職活動量が減っており、偶発的な出会いが少なくなっている」(コンチネンタル・オートモーティブ)ことも要因と見られる。
特に各社が苦戦したのは理系人材の獲得だ。6割の企業が「計画より少ない」と回答した。内定辞退も増えており「24年採用では辞退率が9割」(リケン)というケースも珍しくなかった。
電動化や自動運転、ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)といった新技術への対応には、専門知識を持つ技術者の獲得が必須となるが、こういった人材を欲しているのは、自動車産業だけではない。近年はITやシステムソリューション事業を展開する異業種が競合先だ。「IT系と自動車業界の両方から内定が出た場合、IT系を選択する学生が多かった印象」(TBK)と振り返る企業もあった。
「自動車業界のソフト開発の魅力をアピールした」(デンソー)など、各社はものづくり産業ならではの働きがいや長所を懸命にPRしたが、来春以降も厳しい獲得競争が続きそうだ。
また、学生の趣向の変化も著しい。リクルートマネジメントソリューションズが実施した調査によると、今春に入社した新入社員が、企業へのエントリーを決めた理由として最も多かったのは「希望する勤務地で働けそうだから」で、実に6割以上を占めた。内定承諾の理由でも「自分のやりたい仕事(職種)ができる」が最多だった。
自動車産業でも「職種や勤務地を優先する学生が増加傾向」(NTN)にあり、部品各社も〝学生ファースト〟の採用活動に知恵を絞る。日清紡ブレーキは、転勤が生じないエリア型総合職の導入検討を始めたほか、IJTT、NOK、サンコールなども学生が初任地を選べる制度を導入した。愛知製鋼、住友理工などは初期配属部署を確約した選考活動を実施した。
新入社員を受け入れるため、ハード面で工夫を凝らす企業もあった。タチエスとヨロズは社員寮を廃止して借上げ社宅制度に移行し、GSユアサは独身寮を建て替えた。三井ハイテックは、女性専用の休憩室や社員寮を新設したと言う。ある部品会社の人事担当者は「学生はIT系の先進的なオフィスや福利厚生を知っている。『職場環境は整っていて当たり前』という意識が強い」と話す。初任給の引き上げや副業解禁といったソフト面の施策と両軸で進める企業も少なくなかった。
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採用難が続く中、どこまで学生ファーストの採用活動を徹底できるかが、企業の将来を左右することになる。
このアンケート調査は2月~3月にかけて実施し、主な自動車部品メーカー93社から回答を得た。回答企業は次の通り(五十音順)。愛三工業、IJTT、アイシン、愛知製鋼、曙ブレーキ工業、芦森工業、アルファ、アルプスアルパイン、アーレスティ、イクヨ、今仙電機製作所、エイチワン、NOK、NTN、エフ・シー・シー、オートリブ、オーハシテクニカ、エフテック、河西工業、共和レザー、小糸製作所、コンチネンタルオートモーティブ、サンコール、三桜工業、ジーテクト、JVCケンウッド、GSユアサ、ジヤトコ、住友ゴム工業、住友電気工業、住友理工、ダイキョーニシカワ、大同特殊鋼、大同メタル工業、太平洋工業、ダイヤモンドエレクトリックHD、タチエス、中央発條、椿本チエイン、TBK、TPR、デンソー、東海理化、東プレ、トピー工業、トーヨータイヤ、豊田合成、豊田自動織機、トヨタ車体、豊田鉄工、トヨタ紡織、日清紡ブレーキ、日本ガイシ、日本精機、日本精工、NITTAN、ニデック、日本特殊陶業、日本発条、日本ピストンリング、ハイレックスコーポレーション、原田工業、バンドー化学、ファインシンター、フォルシアクラリオン・エレクトロニクス、ファルテック、フコク、フタバ産業、ブリヂストン、古河電気工業、ボッシュ、マブチモーター、マーレエレクトリック、マーレエンジン、マーレージャパン、三井ハイテック、ミツバ、ミネベアミツミ、村上開明堂、矢崎総業、八千代工業、ユニバンス、ユニプレス、ヨコオ、横浜ゴム、ヨロズ、リケン、リョービ、このほかに社名非公表企業5社。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月8日号より