ダイバーシティー(多様性)を前提とした採用活動や人事制度が常識になりつつある。「Z世代」に代表される若年層にとっては、就職先を決める基準の一つにもなっており、自動車産業でも少しずつ定着し始めた。ただ、技術職を希望する「理系女子」などはもともと、母数が少ないこともあり、部品各社が多様性を推進する上でのネックにもなっている。
■女性を正社員で「採用予定」は7割強
帝国データバンク(後藤信夫社長、東京都港区)が2月に約1万1200社を対象に実施した調査によると、2024年度の採用活動において「女性」を正社員で「採用予定」の企業は全体の7割以上となった。「高齢者」は約5割、「外国人」「障がい者」はともに約3割だった。女性は業種を問わず採用傾向が高まっており、外国人はインバウンド対応が必要な観光業などで引き合いが強いようだ。
性別や人種、年齢などにとらわれない多様性を重視した雇用形態は、学生の志望動機にも直結する。就活サイトなどを運営する学情が、2024年度卒業予定の学生に実施した調査では、就活において企業のダイバーシティーなどに関する考え方を知ると「志望度が上がる」との回答が6割超だった。時代の変化に敏感かつ柔軟な企業の方が、働く上での幸福度が高いと感じる学生が多いようだ。
このような流れもあり、日刊自動車新聞が主要部品メーカー93社を対象に実施した調査でも、ダイバーシティーを意識した採用活動を行っている企業が目立った。特に各社が採用に力を入れていたのは、外国人だ。
日清紡ブレーキは「(大学の)就職課と連携し、留学生に特化した説明会を実施した」と話す。古河電気工業やGSユアサ、NTN、サンコールも外国人材の採用に積極的だった。人工知能(AI)のエンジニアとしてインド人の採用に力を入れている静岡県の中堅部品メーカーは「日本人学生は研究室のコネクションや人脈で就職先を決めるケースが多く、われわれの規模では大企業に勝てない。しかし外国籍の学生であれば、そういった関係性が薄いので、アプローチ次第で優秀な人材を獲得できる」と話す。
また、少子高齢化が進む国内では「日本人だけでは質、量ともに(採用の)目標達成は難しい」(タチエス)という背景もあるようだ。大同特殊鋼やユニバンス、トピー工業は日本人の学生で採用計画が未達の場合、外国人採用を進めていると回答した。
1986年に「男女雇用機会均等法」が施行されて以降、性別にとらわれない採用やキャリア形成が一般的になってきたが、自動車産業では年々「理系女子の採用が難しくなっている」(日本特殊陶業)傾向がある。大学側は、理工系学部で「女子枠」を新設するなど育成に動くが、男子学生に対し女子学生の割合は1~2割にとどまる。
■「リケジョ」採用に試行錯誤
理系女子に特化した就活サイト「リケジョカフェ」には、ジヤトコや日本精工、ミネベアミツミなど多数の部品メーカーが参加して情報発信を行うなど、リケジョとの接点拡大で試行錯誤をしている様子が伺える。
採用だけでなく、人事制度で多様性を重視した施策を展開する企業もあった。JVCケンウッドは、同性パートナーを配偶者に含める人事施策を始めた。LGBTQなどの性的マイノリティーの人が働きやすい職場整備を進めることは、優秀な人材確保にもつながるためだ。
性別や国籍などのボーダー(境界)を取り払い、多様な人材が活躍できる土壌作りが企業側には求められる。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月10日号より