新卒者の定着を促すため、福利厚生などを見直す動きが広がる。日刊自動車新聞が自動車部品メーカー93社を対象に実施したアンケート調査では、約4割の企業が「福利厚生や就労体制を変更した」と回答した。採用後、3年以内に新入社員の約3割が離職する「3年3割」と言われる時代。自社でより長くキャリアを積み重ねられるよう、各社は安心して働ける環境整備を急ぐ。
■住宅関連の手当てを拡充
大手人材・広告会社のマイナビの「2023年度(24年卒版)新卒採用・就職戦線総括」によると、学生が企業を選択するポイントの最多は「安定している会社」(48.8%)だった。具体的に安定性を感じるポイントでは「福利厚生が充実している」が最多で58.8%となった。
こうした学生の価値観を捉えてサプライヤー各社も福利厚生の充実に取り組む。日刊自動車新聞の調査では、39%のサプライヤーが新卒採用のために福利厚生や就労体制を変更したと回答。福利厚生では住宅関連の手当てなどを手厚くする動きが目立った。三井ハイテックは住宅手当を新設し、フコクも住宅手当を月額1万円、引き上げた。ファルテックやフタバ産業なども住宅関連手当てを見直した。
マイナビによると「比較的賃金の低い、若い従業員などにとって住宅手当は大きな生活の支えになるため、人材の定着などを促す効果がある」という。
就労体制の直しも進む。今の学生は、いわゆる1990年代後半から2000年代前半に生まれた「Z世代」に該当し、コロナ禍を経て時間・場所とも自由度の高い働き方を求める傾向が強い。このため「在宅勤務手当の導入」(河西工業)や「フレックスタイム制をコアタイムなしに変更」(JVCケンウッド)、「副業解禁、ショートワーク正社員など、柔軟な働き方に関連した制度」(ボッシュ)などを各社が整える。
こうした制度は入社後のさまざまなライフイベントにも対応し、若手社員の定着を促す効果も見込まれる。
また近年では、採用段階で学生側の配属希望を考慮した採用活動も拡大している。〝配属ガチャ〟への配慮だ。採用支援を手がける会社によると「希望通りの部署や地域への配属が叶わなかった場合、早期退職者の〝予備軍〟になる可能性がある」と企業都合のみで配属先を決定することのリスクを指摘する。
サプライヤー各社でも「初期配属確約型の採用」(日本特殊陶業)や「一部の職種において配属部署・業務を確約するジョブ型採用」(デンソー)など、学生の配属希望を考慮する採用が始まっている。職種別採用を実施しているタチエスは「配属先のミスマッチによる離職を防ぐ狙いがある」と説明した。自身の希望がある程度考慮された配属先を早期に知ることができれば、入社までの不安が軽くなる。企業側に内定承諾率や入社後の定着率の向上につながる利点がある。
一方で、マイナビは福利厚生などの充実に加えて「成長しないことへの不安」が解消されないと早期離職につながる可能性があると指摘する。キャリアやスキルアップなど、若手のうちから成長を実感できる環境も必要のようだ。際限のない若手の要望に経営層や古参社員からため息も聞こえてきそうだが、不確実性が高く、将来予想が困難な「VUCA(ブーカ)」の時代を生きる若手だからこそ、さまざまな不安に寄り添う就労環境が、より一層求められそうだ。
=おわり=
(この連載は村田浩子、梅田大希、堀友香、山本晃一が担当しました)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月12日号より