三菱自動車の北尾光教上席執行役(生産・購買担当)は9月28日、京都大学吉田キャンパス(京都市左京区)で「VUCA WORLDをどう生きるか?」をテーマに講演した。「さまざまな経験を通じて感性を磨き、自分だけの物差しを獲得してほしい」とのメッセージに、大学生、大学院生ら約50人が耳を傾けた。
京都府に生まれ育ち、同大OBでもある北尾上席執行役は、変動性や不確実性を意味する「VUCA(ブーカ)」をテーマに、変化に向き合うことの重要性について自身の体験を織り交ぜながら講義した。北米駐在時代にはニューヨーク同時多発テロに、2013年に副社長として着任したタイでは国王の崩御に直面するなど「歴史の転換点を肌で体験したことが視野を広げる契機になった」と振り返った。見識を深める好機として学生たちにも海外経験を勧めつつ「物事を見分けられる感性を磨いてほしい。感性と理屈が自分の物差しになる」とエールを送った。
座談会での主な討議は次の通り。
―自動車の未来や、これからの自動車業界が社会に対して果たすことのできる役割は
「学生の皆さんもコロナ禍で自由な移動が制約される中で、家の中にこもるストレスを大きく感じたと思う。だからこそ、移動手段としてのクルマの価値はずっと残り続けると信じている。昔は走りそのものを楽しむという側面も強かったが、時代が変わった今は、移動の自由を確保するという役割がより大きい」
「同時に、これからの自動車産業は脱炭素にも取り組んでいかなければならない。政府が掲げる50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)実現を目指し、業界として対応していくことが不可欠だ。やらなければ企業として存続できないと思っており、これに関してはしっかりとやり切る。三菱グループの綱領の一つに『所期奉公』という言葉がある。『事業を通して社会に貢献するという』意味だ。一人ひとりは小さい存在だが、例えば水島製作所だけでも約4千人の従業員がいる。それだけの力が集まれば、たいていのことは実現できる」
―三菱自の働く環境とやりがいは
「三菱自はメーカーとしては〝こぢんまり〟した会社だ。他社が『係』や『課』などのチームで取り組むことを、場合によっては一人で担うこともある。それだけ権限と自由があるということだ。責任は重いが、自分自身でさまざまなことを楽しむことができる」
「一例に、自分のタイ時代の経験がある。タイで生産した車両を全世界に輸出し外貨を稼いでいるとあって、三菱自はタイのビジネスが強く、時の政府に『民間企業の声を聞きたい』と招かれたことがあった。まだ50歳代半ばの自分が首相官邸で閣僚らと交流したが、他メーカーではこのようなことはあり得なかっただろう。大企業、中小企業、それぞれに良いところがある。皆さんも会社選びの際には、自分がやりたいことをやりたいようにできるかどうか、という視点で考えてほしい」
―女性が活躍できる環境は社内でどの程度整っているか
「例えばタイでは、生産管理グループの女性比率が8割、管理職も女性というケースがあった。翻(ひるがえ)って岡崎製作所のようにまだ男社会のイメージが残るところもあるが、力仕事などはロボットがどうにかする時代だ。さらに女性活躍の機会があってほしいと思うし、女性にも意欲を持ってどんどん志望してもらいたい」
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月29日号より