日本の自動車産業は、グローバルな事業展開に力を入れています。国内市場の成熟が進む一方、伸びしろがある海外事業の経営に及ぼす影響が非常に大きくなりました。
かつて日系メーカーは車両輸出が収益の要でしたが、日本車を大量に輸入していた米国が長年の貿易赤字に業を煮やし、1980年代に日本に本格的な市場開放と自国内での生産を求めました。「日米自動車摩擦」という深刻な通商問題で、これを機に日系各社は海外進出に舵を切ることになりました。
国家間の貿易ルールを取り決める通商交渉ではどこの国でも自国の利益の最大化を念頭に、有利な条件を引き出そうとします。自動車関連では完成車の現地生産はもちろん、その生産に使用する部品についても現地製をできるだけ多く使うよう激しい応酬がありました。こうした中、昨年は自由貿易に向けて大きな進展がありました。一つが「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定」の締結です。インドが離脱したため15カ国でスタートする予定ですが、日本に加え、世界トップの経済力を持つ中国が参加しており、その経済圏は世界の国内総生産(GDP)や貿易総額、人口の約3割をカバーする巨大なものとなります。加盟国は自動車部品をはじめとした物品の将来的な関税撤廃に向け、税率を段階的に引き下げる計画です。
日本は欧州連合(EU)を離脱した英国とも「日英包括的経済連携協定(日英EPA)」を締結しました。通商問題で苦労が続いていた日系各社には新たなビジネスチャンスになりそうです。
ここ数年、世界で自国を優先し自由貿易と逆行する動きが目立ちました。しかし、英国が「環太平洋経済連携協定(TPP)」の参加に意欲を見せるなど、再度、自由貿易を重視する国々が増えています。自由貿易が阻害されれば日本の成長戦略にも響きます。今後もさまざまな通商交渉が見込まれますが、自由貿易の推進役として日本の発言力をさらに高めていく必要がありそうです。