ホンダは世界で500万台の四輪車を販売する自動車メーカーです。単一メーカーとして日本の中ではトヨタ自動車に次ぐ2番手の台数で、世界では十指に入ります。
そのホンダが近年、最も業界を驚かせたニュースは、2040年までに新車販売を全て電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)といったゼロエミッション車に切り替えるという野心的な目標を掲げたことです。EVシフトに対して、火力発電の依存度が高い地域で二酸化炭素(CO2)削減効果が目減りすることや電池部材の枯渇などを懸念し、慎重な日本のメーカーは少なくありません。それでもホンダが内燃機関からの卒業を打ち出したのは「まず走行時のCO2をゼロにすることが自動車メーカーの責任」と考えたためです。
創業以来、エンジン技術を競争力の源泉としてきたホンダが、国内他社に先んじて四輪用の内燃機関を〝捨てる〟ことに寂しさを感じる往年のホンダファンや同社エンジニアは一定数いるでしょう。昨春には創業者の本田宗一郎氏が立ち上げた本田技術研究所を事実上解体し、昨秋にはホンダの原点といえるF1からの撤退を表明しました。このようにホンダの代名詞となった技術や組織、取り組みを終えるニュースが続きました。
ただ、4月に就任した三部敏宏社長は「チャレンジ精神」にこそホンダらしさがあると強調します。カーボンニュートラルの実現に向けた今回の発表の一番の狙いは、エンジンや研究所、F1といった形のできあがったものにこだわらず、無謀と言われても新しい〝コト〟に挑戦するホンダの精神を社内で改めて醸成することにあったようです。
ホンダは今春、世界初の自動運転「レベル3」を実用化したほか、小型ロケットの研究に着手する考えも示しました。八郷隆弘前社長は収益体質を改善するため、生産体制の最適化や研究所の解体といった「守り」の施策を実行しました。三部体制への移行を契機に一転して「攻め」に転じ、新しい技術や事業に挑戦していく考えです。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)6月11日号より