製造現場を支える人材の不足がサプライヤーの業績や増産計画に影響し始めた。デンソーは、18年4~9月期の営業減益要因のうち、労務費増が100億円弱を占めた。フタバ産業も18年4~9月期の欧州セグメントで営業損失を強いられた。「人手不足は全世界で起きている」(住友理工の松井徹社長)。手をこまねいていれば機会損失が一段と拡大しかねない。部品各社は各地での採用活動に力を入れる一方で、生産ラインの自動化などを急いでいる。
住友理工は米国で新機種向け受注の増加に対応し、テネシー州の工場で増産要員(期間従業員)を募集したところ「1千人とって900人が辞めた」(松井社長)。1週間教育して現場に出すと、その日のうちに辞めてしまう人もいるといい、製造ノウハウの定着にも深刻な影響を及ぼしている。
同社は2019年3月期の営業利益を従来予想から10億円引き下げた。人材難に起因する米国の生産性改善の遅れが理由の一つだ。
米国では、10月の失業率が3・7%と48年ぶりの低水準で推移。定着率の低下も重なり、現地で増産を計画する企業の中には、住友理工以外にも人員確保で苦戦を強いられる拠点が続出している。マルヤス工業(山田泰一郎社長、名古屋市昭和区)も米国での増産に向け米国での新工場設置を検討する一方、「現地の人と場所が足りない」(山田社長)と、採用の難しさを懸念する。
フタバ産業の吉貴寛良社長は、海外拠点の中でも「特にチェコは大変な人手不足になっている」と厳しい表情を浮かべる。定着率の低下も重なり、ルーマニアやウクライナなど周辺国から人材を手配しているが追いつかない。さらに賃金上昇分や訓練費がのしかかり、18年4~9月期の欧州セグメントの営業利益は、前年同期比4・2%減の5億4400万円の営業損失となった。
デンソーの18年4~9月期連結営業利益は1524億円と前年同期に比べ25・5%減った。製品構成の変化(335億円)や素材上昇(80億円)も大きいが、労務費上昇分も90億円に上る。松井靖常務役員は「このうちの半分以上は日本での労務費の上昇だ」と説明しつつ「企業として出た成果を従業員と分かち合う姿勢を示す。社会の公器として責任を果たしていく」と述べた。
人材不足に直面し、工場の生産性を上げる取り組みも加速している。ファインシンターは、米・オハイオ州の工場にロボットを導入した。井上洋一社長は「17人がずっと欠員状態でオペレーションする大変苦しい状態だった。自動化投資で30人くらいの省人化を図っていく」と話す。投資効果は、19年2、3月にも出てくる見通しという。
愛三工業の野村得之社長は「人材はどこの地域でも足りない」と指摘。その上で「常套手段だが、工場の生産効率を上げ、生産場の寄せ止めも含めて努力していく。設備の半自動化も進めていきたい」と語った。
※日刊自動車新聞2018年(平成30年)11月6日号より