フォルクスワーゲン(VW)の国内販売が逆風に直面している。日本自動車輸入組合(JAIA、上野金太郎理事長)がまとめた2023年暦年の新車販売台数は、前年比1.3%減の3万1815台だった。ここ数年は減少傾向が顕著で、最盛時の14年比では52.8%減と、凋落ぶりがうかがえる。メルセデス・ベンツをはじめとする他ブランドが躍進する陰で、外国メーカー車市場でのシェアも23年は12.8%と、ピークから半減した。こうした情勢変化の一方で店舗網の縮小ペースは緩やかで、今なお全国には約250の拠点が存在する。系列販売会社にとっては、事業の柱たる新車販売で収益性が悪化する一方でサービス体制の維持や電動化対応などに追われ、コスト負担は重くのしかかる。販売現場からは悲鳴にも似た声が上がり、インポーターのフォルクスワーゲングループジャパン(VGJ)も対応を余儀なくされている。
国内市場でVWが最も勢いづいていたのは12~15年ごろ。グローバル施策に連動する形で策定した「マッハ11計画」のもと、18年までに年販11万台とする目標を掲げて輸入車市場をけん引した。当時のVGJ社長だった庄司茂氏の経営手腕もあり、13、14年には年販6万7千台に到達。さらなる上積みも現実味を帯びていた。
暗転の契機は15年に発覚した排ガス不正問題、いわゆる〝ディーゼルゲート〟だ。当時の国内市場ではディーゼルエンジン車を導入していなかったものの、消費者の離反を避けられず、拡大路線が頓挫。以降、販売は右肩下がりで推移している。
追い打ちをかけるのが供給力の低下だ。20年以降は、コロナ禍や半導体不足を受けて「ゴルフ」や「ポロ」などの主力車種を十分に納車できない状況が続いた。21年6月にはゴルフを全面改良して発売したが、新型車効果が登録実績に結び付かず、同年の販売台数は約7600台と低迷。翌22年も1万台割れとなって苦戦した。23年は辛うじて大台を超えたものの、14年比では65.9%減の1万723台にとどまり、弟分のポロも同69.4%減の4214台と、ピーク時からわずか3割の水準だ。
看板車種の不振を補う形で、SUV人気に押され「T―Roc(ティーロック)」や「T―Cross(ティークロス)」が外国メーカー車販売ランキングで上位に食い込むものの、カバーできるニーズは限定的。加えて「各ディーラーに割り当てられた配車数以上は確保できないため、(需要があっても)思惑通りに受注できない」(近畿のVW販社首脳)のが実情だ。
輸入車市場がリードする形で急速に進む電気自動車(EV)シフトでも、VWの国内戦略は誤算が続く。22年11月に発売した「ID.4」は当初、車台を共有するアウディ「Q4e―tron(イートロン)」よりも100万円ほど安い約500万円に設定。発表会見でVGJのVW部門を指揮するブランドディレクターのアンドレア・カルカーニ氏は「ファミリーカーとしてQ4イートロン以上に多くの台数を販売したい」と期待感を示していた。
過去に販売した「e―ゴルフ」などの教訓も踏まえつつ、EV時代の商機を探る〝観測気球〟として投入された格好のID.4だが、販売現場から上がるのは冷ややかな反応だ。とりわけ地方部のVW販社からは「問い合わせは少なく、受注は年間で数台程度」「急速充電器の設置コストを考慮すれば、とても割に合わない」など、厳しい指摘が相次ぐ。
VGJはID.4を皮切りに順次EVラインアップを拡大する構えだが、販社首脳は「(より小型で安価な)『ID.3』を導入してほしい」と口を揃える。こうした声から浮かび上がるのは、販売戦略と市場ニーズの〝ミスマッチ〟だ。
そもそもVWは社名が示すように大衆車ブランドであり、日本においても、価格競争力と商品力のバランスを強みに地位を築いてきた経緯がある。ゴルフ保有客を中心とする既存の顧客基盤に対して、500万円クラスのEVを提案するハードルが高いのは当然と言える。新規層に目を向けても、他ブランドも着々とラインアップを拡大する中で顧客開拓は容易ではない。EVは商品面での差別化が難しいとされるだけに、なおさらだ。
こうした状況を前に、VGJも手をこまねいているわけではない。24年の台数計画を受注ベースで4万台と定めて系列販社に通達し、量より質を求める姿勢を改めて打ち出したが、並行して模索するのが販売店網の見直しだ。水面下では、約250ある拠点を将来的に200ほどに再編し、〝身の丈〟に合った営業体制を向こう数年で構築する構えとする。VW販売に参画する販社にとっては生き残りへの覚悟が問われた格好だが、ここでも淘汰圧として働くのは電動化対応だ。
VGJは23年度内に全拠点で最高出力90㌔㍗の急速充電器設置を完了する目標を掲げて旗を振ってきたが、23年3月末時点では約150拠点ほどの設置にとどまっていた。その後も進捗は滞り、年度内の目標達成は不透明な情勢となっている。EV販売が軌道に乗らない中、巨額のコスト負担を要する充電器導入に対する販社の腰は重い。VGJは個々の販社と対話を重ねつつ、電動化対応に発破をかける。26年に新たな販売店契約の発効を控える中、販売台数や保有基盤などに加え、電動化への意欲もまた、店舗存廃の判断材料とする姿勢だ。
21年6月、全面改良して8代目となったゴルフは、300万円以内に抑えた価格設定が注目の的となった。機能向上などでコストが上昇する中でも、輸入車市場のエントリーモデルという立ち位置を守ったことは、日本市場の特性や重要性がドイツ本国に認められた証左とも評価された。しかし足元の供給力の低下や、市場の実態とすれ違うトップダウンのEVシフトを横目に、販売現場からは、「本国に対する日本市場のプレゼンス、インポーターの影響力が弱まっているのでは」(近畿のVW販社首脳)との嘆き節すら聞こえる。
日本におけるVW車の正規輸入販売が始まってから約70年(当初はヤナセが総代理権を保有)。長年にわたり築き上げた輸入車市場のトップランナーという地位が揺らぐ中、〝大衆車〟の行く末はどうなるのか。販売現場は注視している。
(関西支社・谷口利満、内田智)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)2月19日号より